内政重視で人気回復狙うオバマ大統領

秋の中間選挙を前に支持率低下の米政権

 オバマの今年の一般教書演説は約70分だったが、そのほとんどは雇用問題などの内政で、外交・安保に触れたのはわずか9分間だった。
 米民主党は今年1月のマサチューセッツ州の上院補欠選挙で共和党に敗北した。同選挙区はエドワード・ケネディ議員の死去によるもので、元々民主党の牙城だった。
 今年11月にはアメリカでは中間選挙があり、オバマ大統領はこれに向けて内政に全力を投入しなければならない局面となった。
 アメリカ経済は今も不況下にあり、失業率は10%を超え、医療保険改革も議会を通過する見通しは立っていないのである。
 オバマは、選挙公約を実現する前に大手金融機関の救済を優先しなければならなかったことが支持の低下につながっている。このためオバマは自ら「チェンジ(改革)を実現できるか、確信を持てなくなった人が多くいる」と率直に支持率低下を認めざるを得なかった。
 オバマは「今後5年間で輸出を倍増させ200万人の雇用を創出する」(一般教書演説)として雇用対策に9兆円を投入することを明らかにした。
 アメリカは失業者が約700万人、財政赤字が約1兆3500億ドルに膨れ上がった。しかもイラクやアフガニスタンは泥沼の戦争となり、勝利の見通しは無い。オバマはこの対テロ戦費に1593億ドル(約14兆円)の予算を要求しているが、この額は当初の3倍となっている。
 巨額の公的資金の投入でアメリカの巨大銀行は「再生」したが、同時に幹部の巨額のボーナスも復活した。これに国民が反発しているのでオバマは金融規制強化を打ち出して国民の支持を回復しようと必死なのである。このため金融大手を対象に総額900億ドル(約8兆2000億円)の「金融危機責任料」を課す方針を固めた。また自己勘定取引の規制の方向を明らかにしている。
 こうしたオバマの人気回復策が雇用や景気への成果となるまでには時間がかかるため、秋の中間選挙でオバマが国民の支持を回復できる保障は無いのである。
 アフガニスタンへの追加戦費は330億ドル(3兆円)である。これで3万人の米兵の増派のほかに、3~5万人の民間の傭兵が派兵されている。このためアフガニスタンとイラク関連の支出が膨れ上がったのである。ここには戦争で疲弊するアメリカの姿が現れている。
 アメリカ政府のトヨタ叩きは、自国の自動車産業への政治的テコ入れであり「雇用対策」であり、オバマの人気回復策なのである。
 今年2月1日に発表された「4年ごとの国防政策見直し」(QDR)は、中国やインドが台頭し、脅威の多様化で安全保障環境が変わったとして、米軍の優位性の相対的低下を認めているのが特徴である。また米軍がイラクとアフガニスタンで疲弊していることから同盟国との協力・「負担の共有」を訴えている。
 アメリカは以前からの二正面での大きな戦争を展開する戦略を放棄し、今後は複雑な脅威に対応するための同盟国への依存を強める方向を打ち出しているのである。
 オバマの困難は、前政権の残したツケ、すなわち戦争と金融危機の中で労働者・人民の生活に配慮した政治が後回しとなった事である。このため秋の中間選挙までにアメリカ経済を回復させ、雇用を増大することができなければ、中間選挙の大敗確実で、オバマはかつて「息継ぎの和平」を任務としたカーターと同じく1期だけの大統領となる可能性が出てきた。
 今年の一般教書演説でオバマは「ジョブ(職)」との単語を合計29回も繰り返して対策を約束した。それでもこの演説を「非常によかった」と評価したのは48%しかなかった。この数字は昨年2月の演説時より20%も減っている。
 大統領選の時とは違い「責任税」やリスクの高い金融商品の規制で金融資本を敵に回したオバマが、秋までにアメリカ人民の人気を回復できるか注目される。つまりそれまではアメリカは内向きとならざるを得ないのである。
 したがって外交では(戦争継続のほかは)アメリカが大きく動くことはないという事である。
 今のオバマ政権は国民の怒りをトヨタに向けるしかなかったのである。
 アメリカでは自動車産業の回復が雇用面では大きい比重を占めるからである。
 しかしトヨタの打撃は、アメリカ市場に依存する日本企業にとっても他人事ではないのである。アメリカは中国企業にも重い関税(反ダンピング税や相殺関税)を課している。
 戦争で消耗を続けながら国内経済の建て直しを課題とするオバマは、外国企業・外国との経済摩擦を拡大してでも、雇用のために輸入を削減し、輸出を増やさねばならないのである。このアメリカの内向きの政治は、同盟国との協力関係をも困難にする可能性がある。オバマの成否のカギは雇用の回復にかかっていると言える。
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東アジアの軍事バランスの維持狙う!

台湾への米の武器輸出問題

 アメリカ国防総省は台湾向けに総額64億ドル(約5800億円)に上る大規模な武器売却を決定し、議会に通告したことを公表した。その内訳は、地対空ミサイル「パトリオット」(PAC)114基330発や対艦ミサイル「ハープーン」12基、多目的ヘリ・UH60ブラックホーク60機などである。
 中国が最も警戒している新型F16戦闘爆撃機の売却やディーゼル潜水艦の設計図は対象外にしており、中国政府に配慮した内容となっている。
 これに対し中国外務省の何悪非次官は30日に、台湾への米の武器輸出について「強烈な憤慨を表明し、両国のさまざまな交流や協力関係に極めて深刻な悪影響を及ぼす」と強く警告した。後に中国は米軍との交流の停止を発表した。
 米中間にはチベット問題など民主化の問題があり、また米インターネット検索大手グーグルがサイバー攻撃や検閲を理由に中国撤退を示唆し、米中両国間の政治問題になっている。この問題ではクリントン米国務長官が中国政府の検索結果の改ざんについて「世界人権宣言に違反する行為だ」として中国を名指しして「検閲を強化している」と指摘している。
 今のところ中国政府はアメリカの台湾への武器輸出については中国本土を空爆する能力のあるF16が含まれるかが「禁止ライン」としており、米中関係を今以上に悪化させることを回避しようとしているように見える。またアメリカは中国に国債を買ってもらわないとやっていけないのである。
 アメリカ経済も不況が続いており軍需産業に配慮して武器輸出を認めなければならない側面があり、中国の最近の軍事力増強、とりわけ1000発を超える台湾向け対地ミサイルの増強が続いている中で、パトリオットミサイルの売却は、明らかに中・台間の軍事バランスを維持しようとの戦略的狙いがある。
 オバマ米政権は国内で深刻な雇用問題を抱えており、昨年12月末には中国製の油井用鋼管に最高16%の関税を課す決定をしている。
 現在アメリカは中国製品82品目で反ダンピング税を課し、12品目で相殺関税を課している。
 オバマ政権の対中国外交は、その多くは内政問題としての側面を持っていることを見ておくべきである。つまりアメリカは中国との相互依存関係を崩す気はないのであり、経済的・政治的・軍事的にも現状維持が主要な側面なのである。中国政府もドル建ての輸出額で今年には初の世界一となる公算が強く、最大の輸出先であるアメリカとの関係を維持したいのである。
 2月1日に発表されたアメリカの「4年ごとの国防政策の見直し」では、戦略として長期化するアフガニスタンとイラクの戦場にまず資源を集中する方針を表面している。この報告からは中国批判が国防総省首脳の手で削除されたと報じられている。
 アメリカはアフガニスタンやイラクで兵士が心身両面で疲弊する中で複数の大規模作戦を展開する余力を失っている。この点についてゲーツ国防長官は、報告公表の記者会見で従来の「二正面戦略」は「時代遅れ」と断言した。
 同報告書は、中国やインドが台頭し、脅威の多様化で安全保障環境が変わる中で米軍の優位性が相対的に低下していると指摘しており、軍の前線兵士が疲弊する現実の中で、同盟国との軍事協力の重要性を訴えている。
 これは日本政府の沖縄の基地負担軽減の方向と矛盾することであり、日米双方の立場の違いが浮かび上がっている。とりわけ先の沖縄県名護市長選で米軍基地移設に反対する候補が当選するなど日米相互の矛盾の解決が難しくなっている。
 トヨタ車のリコール問題での米政府のトヨタ叩きでは自動車産業再建を優先するオバマの内政重視の反映であり、日米関係とは関係がないと見るべきだ。
 アメリカがイラク・アフガニスタン重視で、東アジアでは同盟国の役割を重視している以上、中国の軍事力肥大化には、日本や台湾や韓国の役割を強化して軍事バランスを維持していく方向なのである。
 アメリカの求める日米同盟の強化と鳩山政権の「対等の日米関係」の中身に違いがあり、鳩山政権の日米同盟の強化と沖縄の負担の軽減を統一することの難しさを指摘しなければならない。
 台湾への武器輸出ではなく、中国の軍事大国化を阻止する外交が求められているのである。
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