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様変わりする国際的戦略関係

2022年12月の中国の習近平の3日間のサウジ訪問の内容が明らかになるに及んで、世界の政治地図の急変が、報道で明らかとなりつつある。

報道によれば、この習主席のサウジ訪問でサウジは中国政府の核開発への協力の約束を取り付けたという。サウジ訪問中、湾岸協力会議(GCC)と中国の首脳会議後の共同声明でイランの「地域を不安定にする活動」を批判したことは衝撃的であった。共同声明は、イランのテロリスト支援や、弾道ミサイルの拡散、ドローン輸出などの、イランの行いを強く批判したのである。

中国はまた、イランとアラブ首長国連邦(UAE)が領有権を争うペルシャ湾の3つの島の領有権についてUAEの「問題の平和的解決を目指すUAEの努力を支持」したことである。これによって中国の反イランのスタンスが明確になった。イラン外相は駐イランの中国大使を召喚し、強く問い詰めたという。

世界最大の原油産出地帯である中東は、イランのシーアー派とサウジなど湾岸諸国のスンニー派の2大勢力が対立している。核開発を進めるイランは、ウクライナ戦争を闘うロシアにドローンを供給して関係を強め、湾岸諸国雄のサウジは、中国の支援で核開発を進めることになった。

つまり中東は、ロシアと中国が2大勢力を同盟国としたということである。かってはアメリカとサウジの関係は緊密であったが、今やアメリカとサウジの関係は最悪といえるほどで、アメリカは基本的に中東を失ったといってもいい。イランとサウジが、ロシアと中国寄りとなったことで、右翼政権となったイスラエルは、ウクライナが求める対空ミサイル支援を無視し、ロシアに接近し始めた。安全保障上そうするほかない力関係の変化が生まれているのである。

中東産油地帯をロシアと中国が押さえたことは、世界戦略上で見るとロシア・中国の独裁連合がエネルギーを押さえたことで外交的優位を確立したように見える。エネルギー価格高騰で経済的打撃の大きい欧州、国内の分裂と対立を深めるアメリカは、ウクライナに欧州の戦車を供給することで軍事的な挽回を図っているのである。

欧米の、ウクライナ戦争での消耗でロシアのプーチンを失脚に追い込む、という戦略は、覇権獲得へ向け、着々と布石を打つ中国の戦略的優位を促すものになりつつある。ロシアと中国は分担して中東の産油国をアメリカの影響下から外交的に奪い取っり、戦略的な優位を確立したと見ていい。

国際的な協力関係の変化は、欧米対中ロの2大勢力の勢力圏囲い込みの段階から軍事的対立の段階へと進みつつあると見るべきである。ウクライナへのイギリスの戦車チャレンジャーや、世界一といわれるドイツのレオパルト2戦車のウクライナへの供給・支援は、外交上の戦略的損失を、ウクライナ戦争の挽回で反撃するものであり、それが軍事的対立の拡大を促す可能性がある。2大勢力の対立は、一つの布石が別の戦線の変化を促すのである。戦略を持ちえない中小国は大国の外交に翻弄されることになる。
#戦略的変化
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米と中・ロ首脳との会談の意味するもの

今週、バイデン・習会談が行われ、また米中央情報局(CIA)のバーンズ長官とロシアの対外情報庁(SVR)のナルイシキン長官が14日、トルコ・アンカラで会談した。この2つの会談は極めて興味深いものである。

バイデンと習は14日、インドネシア・バリ島での主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)を前に、3時間超にわたり会談した。バイデン政権発足後、両首脳の対面での会談は初めてだった。アメリカ側は台湾問題での互いの「レッドライン」(越えてはならない一線)を探ることに主眼を置いたが、習氏は会談で「台湾問題こそが、最も越えられないレッドラインだ」と主張。議論は全くの平行線をたどった。

他方、 ウクライナ情勢をめぐり、米中央情報局(CIA)のバーンズ長官とロシアの対外情報庁(SVR)のナルイシキン長官が14日、トルコ・アンカラで会談した。ロイター通信などが報じたところでは、2月のロシアのウクライナ侵攻以来、最も高いレベルでの米ロ高官の会談とみられる。核兵器使用の脅しを繰り返すロシアに対して、バーンズ氏が「核使用の代償とエスカレートのリスク」を伝えることが目的だったという。

つまりアメリカ外交の直面する課題が、ウクライナ戦争でのロシアの核使用阻止と中国の早期台湾進攻を阻止したい、との2つであることを示している。ウクライナでの核使用はすなわち戦争のエスカレートを意味し、台湾進攻は中国とアメリカの経済関係の破たんを意味するだけでなく、世界大戦に繋がる戦略的問題である。

ロシアはウクライナ戦線で欧米の先端兵器の軍事援助で不利に立たされており、追い詰めているので「核は使うな」といっても、プーチンは他に打つ手がなければ戦術核兵器を使うことは避けられない。戦線を膠着状態に置き、停戦に持ち込む朝鮮半島方式は、最もあり得る戦術的選択なのである。

中国の台湾進攻は、習近平が内政で行き詰ったとき取りうる軍事的解決であり、この点での主導権は中国側にある。互いにデッドラインを主張し合うことは初めから分かっていた。会談後バイデンによれば「台湾侵攻は差し迫っていない」と指摘しているので、アメリカの首脳会談の狙いは、台湾侵攻の早期可能性を探るのが目的であったと見てよいであろう。

中国における習近平の個人独裁体制確立後の経済路線が失敗した3選の終わりごろ、つまり4年以上後ぐらいに侵攻の可能性が最も高いとみられる。しかし中国側にすれば、ウクライナ戦争で欧米が手を取られているうちがチャンスであり、戦争でロシアが疲弊し、プーチン体制が崩壊した後では、中国とロシアの同盟関係が続いている保証はなく、したがって引き続き早期の侵攻の可能性は高いとみられる。したがってバイデンの「台湾侵攻は差し迫っていない」との判断は気休めでしかない。

とりわけ中間選挙で明らかになった、アメリカの内政が対立と分断を深めている中では、中国側に台湾早期侵攻の好機との判断がありうる。国際情勢の特徴は極めて流動化しており、経済危機と戦争の危機が同時に進行する情勢下においては、政治家の予想や見通しなど、何らあてにはならないと思うべきである。
# 米と中ロ首脳との会談

妥協が難しいウクライナ消耗戦

ロシアのプーチン大統領は19日に訪問したイランの首都テヘランで、イランの最高指導者ハメネイ師やライシ大統領と会談した。ロシアが2月に始めたウクライナ侵攻をめぐって足並みをそろえ、米国に対抗していく姿勢で一致した。

プーチン氏はハメネイ師との会談で、ウクライナ侵攻について「西側諸国の態度が我々に反撃という選択肢を取らせた」と主張。米欧による対ロシア制裁が「原油価格の高騰や食料危機といった逆効果を招いている」と語った。

ハメネイ師は「戦争で一般市民が苦しむことは望まない」と述べる一方で、北大西洋条約機構(NATO)を「危険な存在だ」と指摘。「もしロシアが主導権を取っていなければ、彼らが戦争を仕掛けてきただろう」と強調した。

18日付米紙ニューヨーク・タイムズは、ウクライナ侵攻を続けるロシア軍への支援でイラン政府が最大300機の無人機を供与する準備を進め、月内にもロシア兵の訓練を始める可能性があると、複数の米政府当局者の話として報じた。

南米パラグアイのカノ外務副大臣は20日、同国で21日から開かれる南米南部共同市場(メルコスール)首脳会議へのウクライナのゼレンスキー大統領からのオンラインでの参加要請を断ったと明らかにした。地元メディアなどが伝えた。

バイデン米大統領も出席した中東、湾岸協力会議(GCC)の拡大首脳会議は16日、終了後に声明を発表し「エネルギーを巡る安全保障と市場安定化の重要性」を強調した。バイデン氏が主要産油国に期待した原油増産に関する新たな具体策への言及はなく、原油の高騰は続くとみられる。ドイツへのロシアの天然ガス供給はストップしており、欧州のエネルギー危機は冬に向けて深刻化する。

つまりユーロ圏の拡大を阻止するためにバイデンが仕掛けた挑発によるロシア経済消耗戦は、アジア、中東、中南米、アフリカがロシア・中国側寄りとなり、欧米G7側が資源の高騰で経済制裁を逆に受ける形となり、中国だけが軍事力増強の時間を稼ぎ、戦略的利益を受ける形となっている。

今年秋に中間選挙を控えるアメリカは、ウクライナ戦争を停戦するわけにはいかない。ロシアもNATOのこれ以上の拡大は許さない決意をしており、両陣営にとって経済破綻に向かいつつある事態が続くことになる。このまま第3次世界大戦に突入するのか、双方が妥協を模索するのか?注目される点である。ウクライナのゼレンスキー大統領はNATO加盟でロシアを挑発し、一時は英雄気取りであったが、このまま消耗戦を続ければ、ウクライナは廃墟になる。彼は「亡国の徒」になりつつある。

ロシアのプーチンは以前から旧ソ連領のウクライナが譲れないラインであることを表明していたし、広範なロシア国民はNATOのこれ以上の拡大は許さない、という点でプーチンを固く支持している。むしろ経済危機を背景にした世界的な独裁傾向の高まりが、クーデターで親米国化を図るアメリカの政治手法に世界の指導者が反発している中で、今やロシア側が経済制裁している形になりつつある。アメリカは覇権を失いたくないなら、やがて停戦を選択するほかないであろう。消耗戦は資源を握る独裁国家の方が有利なのである。
#ウクライナ消耗戦

NATO拡大が招く欧州戦争の火種拡大

北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は28日、スウェーデンとフィンランドのNATOへの加盟が認められる見通しとなったと発表した。両国の加盟に難色を示していたトルコのエルドアン大統領が同日、スウェーデンのアンデション首相とフィンランドのニーニスト大統領とマドリードで会談。トルコの懸念に両国が対応することを記した覚書を交わしたことで、加盟を容認した。

同覚書には、トルコで分離独立を目指す非合法武装組織「クルディスタン労働者党」(PKK)と関連組織の活動阻止や、2016年のクーデター未遂事件でトルコが「黒幕」だと非難するイスラム教指導者ギュレン師の勢力を支援しないことなどが盛り込まれた。

北大西洋条約機構(NATO)が北欧のフィンランドとスウェーデンの加盟で合意したことについて、ロシアのプーチン大統領は29日、「軍事施設を設けた場合、相応の対抗措置を取る必要がある」と牽制した。NATOについても、「(ウクライナの極右によるクーデター)2014年以降、我々に対し、何らかの行為をしようとしていた」と指摘。「アメリカは同盟国の結束のために外敵が必要だった」と話した。

アメリカは世界覇権を延命するために反ロシアで欧州の分断に成功したが、これは世界市場の分断を招き、結果アメリカが覇権を失い世界の多極化を促すことになる。アメリカは軍需産業の国であるので、欧州に戦争の火種が拡大することは戦略的利益になるのだが、しかし、それがアメリカの覇権喪失に繋がるのであるから皮肉というしかない。

バイデン政権のアジア重視は口先だけであり、実際にはアメリカが重視しているのは経済統合で独自の通貨ユーロを持つ欧州なのである。ユーロ経済圏の拡大は、アメリカのドル支配を弱めるので、ウクライナのクーデターとNATO加盟のロシアへの軍事挑発を通じて、アメリカはEUの東への拡大を阻止した。

今回のフィンランドとスウェーデンのNATO加盟は、欧州における新たな戦争の布石としての意味を持つであろう。歴史が示しているのは欧州における2度の世界大戦がアメリカの覇権を固めることになった。アメリカは自国が戦場にならない形で兵器売却の巨大市場化に成功したといえる。しかし二度あることが三度目の利益になるかはわからない。

問題はアメリカのこの欧州戦略が、世界第2位の経済規模を持つに至った覇権主義の中国との争いに、どのような戦略的効果を持つのか?という点である。また世界の分割が欧米経済にどのような作用を与えるのか、EUとの関係を深めつつあったロシアを、中国の側に追いやったことで、戦略的に中国・ロシア連合の方が優位になった。なりよりも中東が非米路線を鮮明にし、原油の増産を拒否したことで、対ロシア経済制裁が資源価格の高騰を招き、欧米側の経済的打撃が大きいことが分かり、ロシアの原油輸出禁止を撤回し、価格の上限規制に切り替える動きは、欧米側の経済制裁の失敗を示している。

日本にとっての戦略的変化は、欧州におけるNATOの拡大強化は、アジアにおいては中国・ロシア・インド・インドネシア連合の方が戦略的優位を確立した。日本は核保有国の三正面に敵を持つに至ったことである。アメリカのNATO拡大は欧州に戦争の火種を作ることはできたが、戦略的には経済成長著しいアジアで、アメリカが戦略的遅れをとることになったことは、バイデン外交の失敗を示している。アメリカの野党共和党で、バイデンをチェンバレンのファシスト勢力への融和外交と同じだ、との批判が今後さらに高まるであろう。
#NATO拡大の戦略的意味

米のインド太平洋戦略は再検討を迫られている

アメリカ政府は今年2月、バイデン政権で初めてとなるインド太平洋戦略を発表した。地域で影響力を増す中国に対抗するため、日本を含む同盟国などと連携して安全保障と経済の両面で関与を強める方針を明確にした。「台湾海峡を含むアメリカ、同盟国などへの軍事侵攻を抑止する」と記した。この戦略はインド太平洋地域でのアメリカの安全保障と経済の指針となるものである。

安全保障分野ではオーストラリア、日本、韓国、フィリピン、タイの5カ国を挙げ、条約上の同盟関係を深めるとうたっている。同盟国などとの関係強化による「統合抑止力がアメリカの基礎になる」とも明示した。その特徴は、アメリカが軍事・経済で台頭する中国に単独では対峙できないため、日本など同盟国や有志国とともに「あらゆる領域の侵略を思いとどまらせるように抑止力を強化する」と訴えた。日本の自衛隊などと協力し、アメリカ軍との相互運用性を高めるとしているのが特徴である。アメリカ政府高官は対中政策について「競争が紛争に発展しないように責任を持って管理する」と指摘。新戦略にはアメリカが提唱してきた「インド太平洋経済枠組み」を2022年初めに立ち上げると明記している。

このアメリカのインド太平洋戦略も、ロシアのウクライナ侵攻で、アメリカの戦略的重点が欧州となり、しかもロシアと中国の戦略的軍事的関係が深まる中では、中国を「競争相手」と位置付ける、今年2月のこのインド太平洋戦略はもはや役立たずとなっている。
特に習近平ファシスト政権に対するバイデン政権の認識の甘さは、「経済上の競争相手」との位置づけそのものが間違いである。中国は南太平洋に海軍拠点を作りつつある。習近平ファシスト政権はロシア以上に拡張主義で、世界支配の野心があるという点で、またその大軍拡の勢いから、バイデン政権の戦略上の甘さは、かってのイギリスのチェンバレンとよく似ている。

習近平ファシスト政権なら、ウクライナ戦争におけるロシア側の敗北の教訓から学び、軍事技術的弱点を修正し、補い、台湾や日本侵攻への体制の再構築を数年で行うであろう。反ファシズム統一戦線を準備しなければならないときに、アメリカの中国の位置づけが「競争相手」との認識では、アメリカは頼りにならないと見た方がいい。このままでは日本はウクライナのように、中国を疲弊させる捨て駒にされる可能性がある。日本は単独かもしくは台湾と結び、中国軍の侵攻を洋上で撃破するだけの軍事的強化を図らねばならない。国際情勢の厳しさは、憲法9条を「日本の宝」とする、おめでたい野党を衰退に追い込むであろう。対米自立と防衛力強化が日本の喫緊の民族的課題となっている。
#米のインド太平洋戦略
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